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東京地方裁判所 平成11年(ソ)2号 決定 1999年3月17日

抗告人(被告)

川端政則

右申立代理人弁護士

田上剛

相手方(原告)

株式会社エイジィエヌ

右代表者代表取締役

岡村誠

主文

原決定を取り消す。

本件を広島簡易裁判所に移送する。

事実及び理由

一  抗告の趣旨及び理由

1  抗告の趣旨

主文同旨。

2  抗告の理由

本件で予定される証拠調べに必要な関係証人は、いずれも広島市内に在住していること、抗告人は破産宣告を受け、東京簡易裁判所への出頭費用を負担する資力がないのに対し、相手方は、広島市内に支店を設置する会社組織であり、広島簡易裁判所における審理による不都合はないこと等の事情は、民事訴訟法一七条の「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要がある」場合に該当する。

二  検討

1 記録によれば、基本事件は、信販会社である相手方から、消費者である抗告人に対する消費貸借契約(以下「本件契約」という。)に基づく貸金返還請求であるが、東京簡易裁判所に管轄が認められるのは、本件契約を締結した「限度額借入基本契約書(金銭消費貸借包括契約書)」第一二条の合意に基づくものである。このように、定型的な契約書の中に合意管轄条項があるが、消費者が遠隔地に居住しており、応訴に当たり、経済的、時間的に困難を来している場合の手続的配慮を定める規定が、民事訴訟法一七条である。右の趣旨を踏まえて、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために、移送が必要であるか否かを検討していくことにする。

2  本件契約は、抗告人、相手方間で、相手方広島支店において締結されたものである。そして、抗告人は、本件契約の締結時期、借入金額等を争うとし、抗告人本人のほか、同人の妻、相手方広島支店の担当者の人証申請を行う予定であるという。もっとも、これがどのような争いであるかは明らかにされていないが、抗告人の主張を前提にすれば、本件契約の担当者らの証人尋問等が必要であることになり、右証人等はいずれも広島市内に在住しているため、東京簡易裁判所において右証人等の尋問を実施する場合は、期日の調整等の必要から、審理が遅延し、また、費用が多額となることが予測される。ただし、簡易裁判所の訴訟手続に関する特則その他の手続を利用することにより、これらの負担は軽減されることになるが、それにしても、本件が広島簡易裁判所において審理される場合と比較すれば、抗告人にとって、より負担となり、審理期間も長めとなることは避けられないと考えられる。

3  抗告人は、平成一〇年五月一九日、広島地方裁判所において、破産宣告を受け、同月二二日、免責申立てをしたというのであるから、抗告人が、東京簡易裁判所への出頭費用を負担することは相当困難であるものと推認される。この点は、当事者間の衡平を考えるに当たり、重要な点といわなければならない。

4  相手方は、平成一〇年七月末日、広島支店を閉鎖した旨主張するが、平成一〇年九月七日の時点で、広島支店の電話番号がいわゆるタウンページに掲載されていることからすると、この点は必ずしも明らかではない。しかし、相手方の主張を前提としたとしても、相手方は、各地に支店を有して営業する株式会社であるから、本件を広島簡易裁判所で審理することとしても、抗告人が本件について東京簡易裁判所で応訴することとの比較では、特に大きな経済的不利益を受けるものとは認められない。

5 そうすると、本件は、何よりも、定型的な契約書の中に合意管轄条項が盛り込まれているために、これに基づき東京簡易裁判所に提訴されたものであるところ、遠隔地に居住する抗告人が、経済的、時間的に応訴の困難を来しているものと見なければならないのである。このことに加えて、右2ないし4でみた本件諸事情を考慮すると、本件は、民事訴訟法一七条により、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため、東京簡易裁判所から広島簡易裁判所に移送するのが相当であると解される。以上によれば、これと結論を異にする原決定は失当であり、抗告には理由がある。よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官片山憲一 裁判官日暮直子)

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